2021年、日本製鉄はEV(電気自動車)に使われる鋼材の特許を巡ってトヨタ自動車などへの訴訟に踏み切った。両雄の法廷での対決は長引くかと思われたが、日鉄は突如として訴訟を取り下げた。いったい何があったのか。特集『進撃の日本製鉄』の#3では、業界関係者の声を取り上げながら日鉄の深謀遠慮に迫る。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)
日鉄による対トヨタ訴訟
“放棄”の裏事情とは
日本の製造業“二大巨頭”の対決に、突如として終止符が打たれた。
日本製鉄(日鉄)は2021年、EV(電気自動車)に使われる鋼材の特許侵害を理由としてトヨタ自動車などに訴訟を起こしていたが、23年11月に大方の請求を放棄したのだ。
「請求の放棄」の文言からすると、日鉄がトヨタに白旗を揚げたようにも見える。今回の請求放棄について、調達の経験があるトヨタ社員は「うちがどこから材料を買おうがこっちの勝手だ。日鉄は自分たちの脇が甘くて(中国企業に)特許を侵害されたのだから、裁判が続いていたとしても当社が負けるわけがない」と息巻く。だが、裁判の勝敗のみで判断できるほど事態は単純ではない。
戦う姿勢を見せることが日鉄の目的で、実は初めから裁判を最後まで続けるつもりがなかったとみることも可能だが、これには否定的な意見が少なくない。「この規模の訴訟では、印紙代など裁判費用だけで数千万円、場合によっては億円単位の額がかかる。普通の会社なら、これだけのお金と労力をかけてまで勝てる見込みのない訴訟に踏み切ることはない」(企業法務に詳しい大手法律事務所所属の弁護士)からだ。
では、突然の幕切れの裏には、いったい何があったのだろうか。
次ページでは、訴訟の経緯を振り返るとともに、業界関係者の声を取り上げながら日鉄の深謀遠慮に迫る。